2019年5月30日木曜日

南海の唄ごえを追いかけて (Diggin' Amami Islands) 2

成田第三ターミナル
奄美シマ唄のレコードがなかなか手に入らず、ヒョエェェェェェェェーーーー!!!
っと裏声でシマ唄の発声練習も兼ねて悪態をついていたある日。突如として画面の中に現れたバニラエアの奄美大島行き片道550円セールのチケット。気がつくとチケットをポチっとな(往復総額6000円くらい)。

出発日。緊張の面持ちで、初の成田空港第3ターミナル。トラックを疾走します。

バニラエア 発券
 そしてカウンターでぺらぺらのチケットを発券。井戸端会議をする台湾のお子ちゃまたち。

「バニラ君よ、君はなんと素晴らしいセールをしてくれたんだ」と心の中で万歳三唱をしています。この時までは。

バニラエア 機体
飛行機に乗り込み着席すると、そこはまるで地獄でした・・・

若い女性のふたり連れのうち、隣の席に座ったひとりが大音量で「ゲホゲホ、ずーるずる」の大合唱をひとりでに始めます。
ん・・・?君、もうすぐ死ぬんじゃないのかね??という勢いで。現在インフルエンザ大流行中。しかし当の本人はのんきに奄美旅行プランについて話しています。なんとたくましいことか。窓ぎわに閉じ込められ、病気がうつって奄美で寝込む自分の姿を想像。

「この中にどなたかお医者様はおられませんか?」






離陸後の旋回(機体が斜めになる、あの嫌なやつ)、風で煽られ全力でガタガタする機体、そこに時間が経つにつれどんどん加速してゆく真打「ゲホゲホ、ずーるずる」の三十苦に悩まされながら2時間ちょっとで到着。

飛行機から這い出ます・・・・・空気を吸わせて下さい!

奄美空港 いもーれ
いもーれ!!!
深呼吸をし、そそくさとバスに乗り込むのでした。

BGMとともに、少し奄美大島に滞在したあと、船で屋久島に向かうという地方移住を夢見るのマウンテンバイク持参の女の子の話を盗み聞きしつつ、バスは西へ西へと走ります。大島の東は平坦な地形です。1時間ほどであっという間に名瀬に到着。

もう夕方。宿に荷物を放り出し、商店街へ。先日電話で確認しておいたお店へ向かいます。元気のない商店街。

リサイクルショップねこのて 末広店。

グーグルマップを頼りにあたりまで来るも、それらしきお店がみつからず。とりあえず電話をかけてみました。電話上であたりに見える他の店の名前を伝えると、なんと!目の前から電話をかけていることが判明(恥)。

店のおばちゃんたちに、いもーれ!と挨拶し、そそくさと入店。

紅白幕がかかり、なんだかおめでたいレコードコーナー。
いろいろな張り紙が張ってある。「都会で話題のプレミアものがみつかるから・・・探してね」

あれれ、フォークばっかり出てくる・・・




レコードをさくさく見ながらおばちゃんと話していると、この前北海道からの人が8枚もしま唄を買っていったよと知らされ、無駄にハートに火がつきます。

途中から地元の中年デ(ィ)ガーが入ってきて、いっしょにデ(ィ)ギン。名瀬の他のデ(ィ)ギンスポット(しつこい)について尋ねました。すると同じ商店街のすぐ近くに本当の町レコード屋、ミュージックショップ「じんのうち」があったが、つい昨年末閉店したとのこと。その地元デ(ィ)ガーは、閉店のセールで「100円でユーミンの新品レコードを買えた」とホクホク顔。

しもた、来るのひと足(ほんの二ヶ月)遅かった・・・
(奄美で出てくる中古レコードにかぶっている外ビニール袋の半分には「じんのうち」の名が刻まれている)。

いっぽう、デ(ィ)ガーによると、今奄美ではリサイクルショップが「流行っている」そうであちこちにあるのだそう。バタバタと個人経営の店が閉まっていくご時世に本当かと思うも、ここは関東とは違います。微かな期待をいだくのでありました。

武下和平
そして釣果はというと、しま唄の唄者、武下和平氏の第一集(改訂版)を発見!
・・・というか一番目立つところに置いてあったので速攻で捕獲成功。

裏ジャケットには小さな穴がボコボコ開いている。虫食いだろうか、たいして気にしなかった。
それよりもとんでもなくディープな油とホコリが混ざったような汚れがレコード盤に付着している。中華料理屋の厨房にでも放置されていたのだろうか?おばちゃんに雑巾を借りて、少し拭ってみると、取れそうな汚れだったので購入決定。第二集は先に持っていたので武下和平傑作集改訂版シリーズをコンプリート!!!



後日家で掃除してみると裏ジャケの穴と同様に盤のB面にたくさんのボコボコの凹みがあることに気がつきます。

こ れ は ・ ・ ・ ネズミの歯形や(凹凹凹 ←こんなかんじ)

鼠がかじった場所が異常にバチバチしながら針の寿命を縮めつつ、このレコードは今日も軽快にクルクル回るのであった。




19時閉店なのでお会計をし退店。

店を出たあとの道すがら、じんのうちさんを発見。なんだか悲し。ついさっきまでアナタの存在さえ知らなかったというのに、なぜか大きな喪失感と哀愁を感じてしまいます。

「嗚呼、じんのうちさん」。

つづく。

2019年5月20日月曜日

南海の唄ごえを追いかけて (Diggin' Amami Islands) 1


リサイクルショップ レコード
それは2年前のお盆のある日のこと。炎天下の昼下がり、なんとなく足を向けたリサイクルショップにて、誰かがお盆休みに押し入れの整理でもしたのだろうか、和装をした人物のジャケットの見慣れないレコード3枚が目にとまった。民謡のレコードだ。300円を払い、そのレコード3枚とともにそそくさと家に帰り、うち一枚の汚れをさっとぬぐって針を落としてみる。

するとゆったりとした高い音色の三線のリズムの向こうから、喉がすりつぶれるんじゃないかというような野性的でいて、滑らかな階調の裏声づかいが美しい、そんな唄ごえが聞こえてきた。その鮮烈「南海の唄ごえ」が始まりだった。

武下和平
武下和平/武下和平傑作集(改訂盤)第二集

朝崎郁恵や元ちとせは奄美出身の歌手として当然知っていはいたが、このとき「奄美民謡」という枠組があること、そして奄美民謡というのは、こーいうものなのね、と初めて意識した。
一般的にイメージされる沖縄民謡の「島唄」とはまるで違う。それが奄美の「しま唄」だった。しま唄は、しま(集落、今でいう村より小さいアザ(字)程度の血縁、地縁社会)の住民が共有し愛唱する唄の意。

とにかく耳にジャストフィットした。そしてなぜだろうか?これが「新しいもの」として聞こえてきたのだ。逆に今まで耳を通過してきたエチオピア歌謡やアジアの民謡・歌謡などのはるか遠くの地の音楽とも通底するような気もしなくもない。謎が深まーる。
ジャケットに書かれている解説や文献をあたると、武下和平(たけしたかずひら)氏は昭和8年鹿児島県大島郡瀬戸内町諸数(加計呂麻島)生まれ。奄美の「しま唄」の唄者(うたしゃ、奄美群島でしま唄の名手のこと)で、「百年にひとりの唄者」とまで言われた伝説の人物・・・ということらしい。30歳手前でこのレコードのレコーディングを行っている。その後神戸市へ移住・・・

奄美群島 音階
翌月、某・房総半島にある巨大倉庫系の店でたまたま「南国の唄ごえ —奄美民謡集」(コロムビアレコード、1962年、古い!)を発見。1,100円もするが、時代に見合わない豪華な見開きのジャケットと監修の服部龍太郎氏によるブックレットの解説が充実していたので購入。武下氏も一部参加。

解説によると奄美民謡の音階はドレファソシドの日本民謡の音階を使う(対して琉球民謡の音階はドミファソシド、いわゆる琉球音階)。いっぽう奄美民謡の歌詞には日本民謡の七七七五調ではなく、琉球歌と同じ八八八六調・三十音の詩形を使うとある。つまり上の図版に引かれた2本の線の間の島々にしか「ドレファソシド音階」+「八八八六調詩形」の組み合わせの民謡は存在しないのだ。ビックリ!しかもよく見ると同じ奄美諸島でも沖永良部島と与論島は入っていない、二度ビックリ!!

これで武下和平傑作集に感じた、もやもやとした「新しいもの」の正体をなんとなくつかめた気がした。目からウロコ、服部氏の奄美民謡解説に10ガッテン!
ちょっと調べると奄美にはローカルなレコードレーベルがいくつかあり、沖縄ほどではないが、かなりの数のタイトルがリリースされていたことも分かった。武下和平傑作集もそのうちの一枚だ。こうしたレコードの企画・生産(本土委託)・お土産などとしての販売は島のちょっとした産業として成り立っていたようだ。

ここから奄美のしま唄のレコードの存在を頭の片隅に置きつつのデ(ィ)ギンライフが始まった。その後1年半が経過し、釣果はというと・・・下北沢で出ました!1枚だけー。 あっ、リアル店舗でのあまりの出なさ加減にヤフオクでビットしまくった2枚については、何卒ご勘弁ください(世の中には少なからず酔狂な同士がおられるようです)。

ヒョエェェェェェェェーーーー!!!出てこない奄美のしま唄が!
どいうことでしょう?最初に出た3枚は死神の落とし物かなにかですか?本当に同じ日本で売られていたレコードなのでしょうか、エチオ歌謡の方がよっぽど出てきやがるゼ。

と、そんな悪態をついていたある日、偶然クッリクしたホームページにこんなクリスマスの広告が・・・

バニラエアのセール
ビバ⤴⤴ GO GO 550円!!!
気がつくと購入決定ボタンをポチッとしていた、斜め上に視線をそらしながら↗↗(往復総額6000円くらい)。パイセンデ(ィ)ガーによる情報から奄美大島にはどこどこへ行くべしということで、電話で店に事前確認し目星をつけておいた。タイトスケジュールである。

真冬に南海の唄ごえを追いかけて。

つづく



出典、参考文献 
『南国の唄ごえ —奄美民謡集解説文、服部龍太郎
『「唄う島」奄美と音楽メディア事業 —島唄・新民謡・ポピュラー音楽のレーベルを軸に—』加藤晴明

2019年5月10日金曜日

次回予告 新シリーズ 「デ(ィ)ギン・ニッポン」第壱弾!


平成が幕を閉じ、いつのまにか令和元年。近頃のマンネリを打破したい当ブログにとってもいいタイミング。改元後の最初の記事にふさわしいものとはいったい何か?

考えにかんがえて、ひねり出しましたのが・・・不定期の新連載、その名も「デ(ィ)ギン・ニッポン」シリーズ。

みなさんも赤面せずに、あえて昭和風に発音しましょう、「デギン・ニッポン」!

ひねり出したわりには、ひねりられていない連載名・・・
否、ニッポンと言ってもデ(ィ)スク・ユニオンや近所のリサイクルショップでのしょーもない釣果報告をしても仕方がない。

なんびとも求めないであろう情報を一方的に発信するのが当ブログの本懐。
「みんなで感動をシェアしたいから行くんじゃない、行きたいから行くんだー」

次回、来たるシリーズ第1弾『南海の唄ごえを追いかけて』、第1話。
さあ行きましょう、誰も掘りに行かない場所へ。約10日後、乞うご期待!「デ(ィ)ギン・ニッポン」!!!